他人抜きでは生きられないことを教えてくれる ”ゼロからトースター作ってみた結果”

 

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

 

 

□内容の簡単なまとめ

イギリスの芸術系の大学院の卒業制作で”ゼロ”からトースターを作ってみたその体験記と作っているうちに感じた現代社会への考察を綴った一冊。

ちなみに筆者はTEDでこの経験をプレゼンしている。

 


Thomas Thwaites: How I built a toaster -- from scratch

 

すごいのは本当にゼロからトースターを作っていることだ。ここでいうゼロとは、材料が自然に存在している状態から加工して作ったということ。

つまり、鉄は鉄鉱石を製錬して得たし、銅は銅が大量に溶けている水を電気分解して得ている。プラスチックはジャガイモから作ろうとチャレンジもした。

このトースタープロジェクトにおいて、筆者はルールをいくつか決めているのだが卒業制作に間に合わせるためにそのルールを破っちゃうのが人間らしい。

 

□読んで感じたこと

 

●人は一人で生きられない

ゼロからトースターを作ろうとしたのはどうも初めはただの思いつきだったように感じる。

つまり何となく、トースターにしたのだ。ところが実際にトースター作りに四苦八苦している中でなぜトースターなのかを手を動かしながら、様々なフィールドに出ながら実感し、考えている。最後にはたった4ポンド(500円程度)で買えるトースター一つですら人類のこれまでの叡智や苦労の積み重ねであり、そこには膨大な人間や資源エネルギーが掛けられており、その過程で人類がどれだけの環境負荷を生んできたかを実感している。

身近な、ワンコインで買えそうなトースターですら現代人一人だけで作るころは難しいのである。

 

モノにあふれている今だからこそ、モノを作ることの大変さ、そこに隠れている環境や他人への影響を実感するために、みんな一度トースターを作ってみるといいと筆者は進めている。

 

●行動しているうちに”何となく”の理由がわかる

最初に書いたように、トースターを作り始めたのは”何となく”であったように感じる。

だが行動しているうちにその”何となく”の理由がわかり、自信を取り巻く生活への考察が行われている。

これは、誰にでも当てはまることだと思う。何となくやりたいと思ったことの理由はやってみたらわかることが多い。

問題は最近その何となくを認めない人が多いような気がすること。常になにか明確な理由がないと認めないといった風潮があり、理由をつけて始めるとその理由に引っ張られてこれじゃない感がある。

もちろんビジネスの世界なら明確な理由は必要だけど、個人的なことにまでこういうことを求められすぎている気がする。

やらないと分からないことって案外多いし、そこから得られるモノも多いのにね。

 

金なしでも豊かな生活 money less man(邦題 ぼくはお金を使わずに生きることにした)

 

ぼくはお金を使わずに生きることにした

ぼくはお金を使わずに生きることにした

 

 

 

The Moneyless Man: A Year of Freeconomic Living

The Moneyless Man: A Year of Freeconomic Living

 

 

 

□内容のまとめ

お金に対して疑問を持つマークさんが、お金を使わなくて豊かな生活を送れるかを一年間の実験を通して示した本。

 

お金や資本主義への疑問から始まり、ガンジーの「自らの欲する変化に自身が変化せよ」という言葉に勇気づけられ。生活に必要な電気や、家、食料などをお金を介さず物々交換やごみ漁りなどをしながら手に入れる。大規模なパーティなどを企画したり、ヒッチハイクでテレビ局まで行き、「金なし生活」について話す。そんな一年間の金なし生活の様子とその中で感じたことをイギリス人らしいユーモアを交えながら生き生きと書いてある。

 

□なんで読もうと思ったのか

英語の勉強用のペーパーバックとして購入。その面白さにページをめくる手が止まらなかった。

 

□感想 この本の本質は金なし生活そのものではなく、いかに幸福に生きるかを考えている点

 

いわゆる自給自足の経験談かと思いきや、経済の話や環境問題の話など様々な社会問題にも言及している。作者のマークさんは環境問の原因の一因や、人々があまり幸福に見えないことの原因として、”生産”と”消費”が遠く離れてしまっていることに原因があるという。

 実際ある心理学者によると作ることは人間にとって消費よりも、喜びの大きい娯楽であるのでより幸福に生きるために生産を生活にとり入れるのは重要だろう。

 

 私たちの生活は今やあまりにも複雑すぎて、自分の生活なのにコントロールできないことが多い。物価とか電気代とか生活へのインパクトが大きいのに自分でコントロールできてない。生産を近づけるというのはお金によってアウトソーシングしていた自分の生活を、また自分のコントロールに近づける行為なのだとこの本を読んでいると思う。ただ、アウトソーシングしてたのは自分でやると大変だからである。こんな個人では難しい仕事もマークさんは友人や周りの人の協力を得て悪戦苦闘しながらこなしていき、それがまたいい思い出になり豊かな人間関係の構築につながる。

 

 生活に必要なものはお金ではなくお金を使って得られるモノ。だからお金を介さずに直接そのモノを手に入れればいいんじゃない?という価値経済やシェアリングエコノミーの先駆け(という時期か?)的な活動も行っており。ただの日記というより、ある意味で社会の行く先の一つを暗示している。

 

 お金への依存を減らすことはこれからの未来を生きる上で重要。依存の減らし方や新しい生き方を提示してくれる一冊。