理性的な生き方 "あなたが世界のためにできるたったひとつのこと <効果的な利他主義>のすすめ"

 

 

■簡単なまとめ

シリコンバレー、ミレニアル世代を中心に新しいムーブメントとなっている"効果的な利他主義"について、その考え方や、動機を実践している人や組織の例を挙げながら、分かりやすい文体で書いてある。

 

効果的な利他主義とは、簡単にいうと"あなたが世界をよくするためにできるたくさんのことを行う"ことである。

効果的な利他主義者はそのため、コストパフォーマンスに注目し自分もっともインパクトを与えられる"いいこと"(例えば特定のチャリティーに寄付を行う、チャリティの効果を測定する組織を作る等)を行う。

 

著者は世界でもっとも影響力のある哲学者として知られるピーター・シンガー。TEDにも効果的な利他主義について述べている動画が挙がっている。

 

■感想  理性的であると、利他的になる?

 

あなたが世界のためにできるたくさんのいいことをする、とは分かりやすい例を挙げるならば、同じ百万円を寄付するなら、一人でも多くの人を救えるチャリティーに寄付をする、ということである。

つまりは投資に対するリターンの大きな所に寄付をすべきという当たり前の発想のように思えることである。

 

これは何も人の命をただの数字として捉えて、粛々と処理をするというサイコパス的な考えではなく、そばにいる人の命も、遠くにいる見知らぬ人の命も両方とも同じように大事で価値のあるものであり、それであるならばよりたくさんの命を救ったり、多くの苦しみを世界から取り除いた方がいいという、理性的な考えに基づいている。

 

実際、何が人々を効果的な利他主義へ導くのかを考察している章があるが、そこで揚げられるもっとも有力な説が数字を理性的に、論理的に公平に受け止められることであった。

 

実際現在のアメリカ人のIQを100とすると百年ほど前のアメリカ人のIQは80程度となり、全体で見ても論理的に考える能力が上がっている。この現象をフリン効果というらしいのだな、著者によれば論理的思考力の向上が後押しとなり、倫理にもこのフリン効果が働きその結果、効果的な利他主義者が増えてきているのだろう、ということであった。

 

例えば子孫を残せない働き蟻がそれでもコロニーのために働く理由として、適応度の最大化が挙げられるが、人類は論理的思考力を高めたことでようやく、世界をよくすることが自分達の適応度の最大化になるということに気付いたのかもしれない。

 

実際本書の最後の章で人類の絶滅を回避することは最もよい"いいこと"になりうることを数字を挙げながら示してしている。

 

 

環境に良いことをするというのも始めこそ単純な共感がドライビングフォースになっていたのかもしれないが、現在ではこの論理的思考が主なドライビングフォースになっているのかもしれない。

 

働き始めた時の生き方、哲学について考える良書である。原著も買って読んでみたい。